WTO閣僚会議とコロナワクチン

前回紹介した世界貿易機関 (WTO)の閣僚会議で、6月17日採択された閣僚宣言 (Geneva Package)に、新型コロナワクチンの特許の一時的な放棄に関する合意が盛り込まれた。

当初、6月12~15日の予定だった閣僚会議だったが、先進国と途上国の意見の食い違いから協議は難航し、会期を2日延長して合意にこぎ着けた。合意に達する可能性は低いという予想だったから大きな成果といえるが、NGOや製薬業界からは批判されている。

今回の合意は、新型コロナワクチンをTRIPS協定が規定する知財保護の対象から一時的に除外し、開発途上国が権利者の同意なしに新型コロナワクチンを製造したり、輸出したりすることを認めるもので、今後5年間自国向けの製造・供給だけでなく、ほかの開発途上国への輸出(COVAX等国際的配分枠組みを含む)も可能。開発途上国による製造を可能にすることで、いまだに接種率が2割に満たない低所得国にワクチンを普及させる狙い。

WTO事務局長であるンゴジ・オコンジョ・イウェアラ氏は裕福な西側諸国によるワクチンの買い占めを、「道徳的に容認できない」と激しく批判し特許停止が必要だと主張していた。

しかし、国際製薬団体連合会(IFPMA、本部・ジュネーブ)のトーマス・クエニ事務局長は会議終了後のプレスリリースで、「この決定は、あらゆる手段を尽くしてきた科学者に対する冒涜(ぼうとく)であり、すべての大陸における製造パートナーシップを弱体化させる。ワクチン不足に影響を与える唯一最大の要因は知的財産ではなく、貿易だ」と表明。

他の欧州の製薬業界団体も、この合意を批判。「たとえ製法があったとしてもコロナワクチンを製造する訓練を受けた人材がいる国はほとんどないため、この特許放棄はほとんど現実的な効果がないだろう」という見解だ。

 一方で合意内容はコロナのワクチンや治療薬、診断薬全ての特許権放棄を主張していたインドや南アフリカなどの期待には及ばない。コロナワクチンを企業や国によって制約されない「世界の公共財」として扱うよう、他のNGOとキャンペーンを展開してきた国境なき医師団(MSF)は、あらゆる新型コロナ医療ツールとすべての国を対象とする2020年10月当初の提案に比して、今回の合意は不十分な結果であると失望を述べた。

期間を延長し深夜まで議論を重ねてやっと合意に達した宣言であったが、関係者の反応は様々。政府間の全会一致決議すらも、私企業や市民団体には評価されないという国際会議の難しさを感じさせる。

「誰にとっても理想的とは言えない解決策に至るかもしれない。しかし、それが解決策だろう」と、スイス経済相のギー・パルムラン氏は、合意に先立つ記者会見で発言した。

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