仕事上、長くて委細にわたる履歴書やプレゼンに遭遇するが、必ずしも効果的とはいえない。空席に関係ないスキルや資格まで入れるとインパクトは薄まる。役立ちそうな情報は全て入れる、という心理は「プレゼンターのパラドックスPresenter’s Paradox」と呼ばれる。
心理学者のウィーバー、ガルシア、シュワルツらは2011年に、「プレゼンターのパラドックス」を例証してみせた。被験者にiPodとカバー、そして音楽を1曲無料でダウンロードできる特典つきパッケージとiPodとカバーだけのパッケージの2種類を提示しそれぞれへの支払い意思額を調べた。
被験者らが示した意思額の平均は、ダウンロード付きのパッケージで177ドル、ダウンロードなしのパッケージで242ドルだった。価値の低い無料ダウンロードをおまけしたために、パッケージの知覚価値がかえって65ドルも下がったのである。
一方で別の実験グループにはマーケティング担当者(サービス提供者)になってもらい、上記2つのパッケージのうちどちらが消費者にとって魅力的だと思うかと尋ねた。結果、被験者の92%が無料ダウンロード付きのパッケージに魅力を感じたという。
提供側の立場に立つと「多いに越したことはない」と思うのに、消費者はそう考えないという矛盾。これは国際機関へ自分を売り込む時の応募書類や面接にも当てはまる。
自分の数ある実績を全て並べておけば、雇用側がそれを足し算してくれるだろうと、応募者は普通考える。だが単に多いだけでは効果は低い。採用側は、候補者の学歴や資格職歴等を足しているのではなく全体をひとつのパッケージとして評価しているからだ。有功な学歴や資格も、ポストに関係のない学歴や言語能力などと同列にすると、受け手の印象は弱まる。
何でもいれたい衝動にかられるときは履歴書の全体像をチェックし、よけいな情報は削る。面接の受け答えでもポストへの関連事項のみを強調するよう心がけよう。ただし、自分を売り込むという主観性がプレゼンターのパラドックスと相まってなかなか難しい。キャリア国際機関の応募書類添削や模擬面接サービスも利用してほしい。