ドナルド・トランプ前大統領が、米大統領選で勝利し次期大統領になることが決まった。前トランプ政権で苦い経験をした国連は、トランプ次期米大統領が再び多国間システムに挑戦することを警戒している
国連や多国間主義に批判的なトランプ氏は、第一期目では、WHOから脱退する方針を表明したほか、実際に国連人権理事会とユネスコ(国連教育科学文化機関)、パリ協定、イラン核合意から離脱。
また、国連の運営資金における米国の負担が不公平なほど大きいと不満を漏らし、改革を要求した。米国は伝統的に国連への支払いが遅く、国連の22%と27%を占める通常予算、平和維持活動予算の支払いはよく延滞し、国連の年末の資金繰りを厳しくする。
米国が多国間主義に共鳴せず、「米国第一主義」を取る姿勢はトランプ政権に限らない。トランプ時代を引き継ぎ、バイデン政権もWTO上級委員会への新たな判事の任命を拒否し続け、WTOを機能不全に追い込んでいる。
2023年10月の中東紛争の勃発依頼、ガザでは多数の民間人が犠牲となり、イスラエルのネタニヤフ首相は国連やグテーレス事務総長を非難。だがイスラエルを支持するバイデン政権はパレスチナ地区ガザでの停戦を求める安全保障理事会決議に繰り返し拒否権を発動。一部の国際社会の怒りを買っている。
国連が最も心配しているのは、米国が分担金の拠出を減額し、世界保健機関(WHO)や気候変動対策の枠組みであるパリ協定などから脱退してしまうこと。2023年の米国からの拠出金は、国連・関連機関の全歳入の28%を占めた。ドイツは12%、中国や日本はそれぞれ5%だ。米国への依存度は高い。
このように米国は国連システムの最重要アクターである一方、国連批判の急先鋒でもある。国連に敵対的なトランプ氏がどのような政策を出してくるかは未知数だが、国連が痛手をこうむる可能性は大きい。
多国間主義である国連にとって、米国の影響力が減少することは、多国間の力のバランス再編を意味している。トランプ氏が国連分担金を減らして国際協定から手を引けば、中国は国連での影響力を強める願ってもない機会を、手に入れることになる。