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日本語を生かせる国際機関の仕事

「国連で働いています」というと、よく返ってくるのが 「 通訳ですか 」、という質問。日本国内で想像する国際機関の仕事とは、その程度のイメージなのかと唖然とする。

国連の公用語は、英、仏、スペイン、アラブ、ロシア、中国語の6カ国語。通訳、翻訳官はこの内の一つを母国語とし、他の2種類の公用語からその言語に通訳、または翻訳する。ただし、アラブ語、中国語の場合 、母国語ほか2カ国語が達者なものは稀なので、それぞれの母国語を英語かフランス語に、そして そこから母国語に直せば良いことになっている。

通訳、翻訳官等は言語スタッフと呼ばれる専門職。一斉採用キャンペーンで 採用者を多数リストアップし、空席が空き次第徐々に配置していく。日本語は公用語ではないので、正式国連職員としての日本語通訳、翻訳官は存在しないことになる。

国際機関で日本語が生かせる仕事は多少存在する。例えばWIPO(世界知的所有権機関)のパテント関係ポストやそれに関する翻訳など。ILOでは、職員ではないが、大会議の際は 日本代表団に通訳がつく伝統がある 。国連の日本語ガイドも少ないながら需要はある。

邦人がトップに立っている機関やプログラム の特別補佐 や日本事務所とのリエゾンの仕事にも日本語は有利。大きな機関だと雇用担当官に日本人をあて、邦人採用に活用する場合もある。

このほかUNV(国連ボランテイア計画)では定期的に日本人向け、日本語使用ポストを公募している。ボランテイアであるが、手当もつき、国際機関の経験として認められる。また在日国際機関ポストの多くには、 日本語が望ましい条件に含まれている。

いずれの場合もあくまで、学位、経験などの基本条件を満たしてのみ日本語が生かせるわけだ。国際機関では、おしなべて英語母国語の者が有利と言われるが、少ないとはいえこのような機会もあるので、逃さず利用したいものだ。

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ネット面接ハプニング

模擬面接の依頼が立て込んでいたある週、普段ならありえないハプニング が2度あった。まず、候補者側のマイクが作動せず音声なしとなった場面。もう一回はこちらの居住地全区でスカイプが故障した時。どちらも修復の見通しが立たず、結局日を改めて模擬面接を行なった。

本番の面接でも、予期しなかった問題が急に発生することがある。例えばマイクやカメラ、パソコンがうまく機能しない事態。また アプリに障害が出たり、インターネットとの接続が悪かったりと状況は様々だ。

採用側としても、インターネット面接中予期しない 出来事を色々体験した。突然の停電、予告なしに誰かが部屋に入ってきた時、ネットや電源の急な乱れなど。準備万端で臨んでも不慮のハプニングが避けられない場面はどうしてもある。

このような時、一番必要なことは落ち着くこと。採用側と連絡がとれれば、状況を説明して指示を仰ぐ。相手からは時間や日にちを改めて再開するか、電話回線に切り変えて続行するか等の決断が出るはずだ。急に接続が切れてしまい自分の方から何もできない時はそのまましばらく待つ。

何れにしても、パニックに陥ることなく冷静に対処したいもの。国際機関側では、 よくあること、特に途上国との接続にはありがち 、と認識しているのでそれ程気にしなくていい。ただし、自分の事前の準備が万全 でなく面接続行に障害が出た場合は、印象が悪くなるので気をつけたい。

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多文化間コミュニケーション その2

国連職員間の 文化の違いからくる コミュニケーションギャップ。前回に引き続き 、 個人的 な経験を述べてみたい。30年ほど前のアラブ語翻訳官リクルートの際のエピソードだ。アンチークな話ではあるが、国連に勤務し始めだったから鮮明に覚えている。

国連翻訳官採用はJPOや YPPの場合と同じように、一斉公募し選択をする 競争試験リクルート型 。書類選考と筆記試験を通過した応募者を翻訳部部長、アラブ語翻訳課課長、そして人事部と3者構成で面接していく。候補者の数は多く、面接はジュネーブ、ニューヨーク、カイロでそれぞれ1週間ほど続く。

ジュネーブ面接最終日に、国連本部ニューヨークの翻訳部部長が倒れ入院した。急遽、国連 ジュネーブ翻訳部部長のカイロ行きが決定。しかし国連のレセーパセー、という独特のパスポートにエジプトのビザがなく、ジュネーブ翻訳部部長の2日後の出発が危ぶまれた。

人事の私は本部ニューヨークの人事部課長に 至急電話 。面接はジュネーブ翻訳部部長が代行できるも、ビザを持っていない、という報告をした。異文化ゆえのミスコミュニケーションか、 慌てて説明不足だったせいか、ニューヨークからの指示は驚くものだった。ビザがなければ、アメリカンエクスプレスを使えと、言ったからだ。

さすが、アメリカ、ビザといえば最初に思いつくのはクレジットカードと感心したが、これも 認識、文化の違いと言えるだろう。多文化間の意思疎通のギャップは身近なところにあった。笑える話ではあるが、これがもっとシリアスな状況だったら大変なところ。

結局エジブトのビザを大至急手配し、 面接官代行も一緒に予定どうりカイロに出発できた時はホッとした。

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多文化間コミュニケーション

国連には187カ国からの職員が勤務しており、多様性と包括性は重要な課題だ。文化の違いからくる コミュニケーションの障害を取り除き、お互いをよくわかり合う努力は必須。そのための職員用セミナーも多く、個人的に何度か経験した。

セミナーで は、出身国の文化 がどのように部下の扱い方に影響するか、という例が出た。部下の仕事場に気軽にやってくる上司と、予定の機会以外はアポを取らないと会ってもらえない上司。 職階級を重んじ、目下とは気軽に接しないのが後者のケースだ。オランダの学者ホフステード流にいえば権力の格差の大きい文化圏出身者である。

ただこの例は、一概に文化の違いで片付けられないのが複雑なところ。私の経験では外交的な上司はヒエラルキー重視の文化に関係なく、部下 のところにも積極的に出かける 。一方どの文化圏 育ちでも、学者肌で内向的な上司だと、部下の方から事務室のドアを叩くことになる。

国籍より、上司の性格によるのではというのが 素直な感想だ。これも個人的観察だが、開発系はおしなべて 外交的な人が多く、技術系や財務等の専門家には職人気質 がよく見られるように思う。

時間や期限を守るという例も出たが、 個人 の性格や、職場環境の要素が入ってくるので出身国の文化だけでは説明しきれない 。 また、グローバルな環境をすでに経験してから国連に就職した者は、故国の文化を反映していないかもしれない。 文化的特徴は傾向として捉えておく程度がいいかも、と思ったセミナー だった。

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応募書類の書き方

仕事柄、応募書類を添削する機会は多い。念入りにチェックするのは職歴の部分。外務省主催のセミナーでも触れたが、訂正箇所の多い書類には共通の特徴がある。

まず細かい。委細丁寧すぎると、読み手はすぐにプロフィールが把握できない。似たケースで、周知のこと や空席と関連性の薄い事実まで記述している書類もある。

英語が達者で必要以上に長い書類は、要約能力がないと思われ返って不利だ。逆に作文力が低く短かすぎる記述も困る。

このほか冠詞や前置詞の間違いや、Duties とAchievementsの混同はよくある。 会社やチームの業績はあるが個人のものが不在というのも残念だ。仕事 の内容がよく わからない描写も頻繁と言える。

日本人に独特なのは、細かさ、職務内容が理解できない描写と成果の不明さ。業績がチーム単位なこと、細かく丁寧に説明することは日本の文化であり、美徳と思う。だが、アングロサクソンベースの人材システムである国際機関への応募書類には不向きだ。

一番 典型的なのは 仕事の書き方。書き手の意図は想像できるのだが、日本人には推し量れても英語の文としては理解しがたい。

この理由の一つには 、日本語と英語の文章構造の著しい違いがあるだろう。英語を日本語に直訳したものがそのまま使えないように、その逆も然りかと思う。日本語をそのまま英訳しただけだと、意味をなさないことが多い。ネイティヴがチェックし、英語は正しいのだが、仕事内容のイメージが掴めない応募書類もある。

職歴は日本語で考えをまとめ英訳するのではなく、英語で考えて英語で書くのが効果的だろう。辞書も和英より英英がおすすめ。地道に英作文能力を上げていき、応募書類に限らずなんでも英語で表現できるようになれば理想的といえよう。

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夏休み

恒例の大きな会議や総会が初夏に終わると、国際機関にも夏休みシーズンが到来する。7、8月に 活動をスローダウンする機関は特にヨーロッパで目立つ。会議や研修、空席広告の数も減少し、休暇をとる職員も多数。駐車場に空きが目立ち、カフェテリアが混まなくなりインターンが増えれば、 シーズン突入だ。

色々な国際機関を経験したが、夏休みを一番感じさせるのは、なんといってもフランスに位置する国際機関だろう。 Vacances(バカンス)という言葉の発祥地でもあるこの国では、長期間の夏休みは 当然の慣習であり、国際機関も中実に従っている。

夏のパリは住民がいなくなるとよく言われるが、UNESCOや OECDでも長期の夏休みをとる職員は多い。交代で休むので、ガラガラになることはないが、夏の間に重要な企画や緊急のビジネスは始めない方が賢明だろう。

OECD時代にびっくりしたのは、8月になると周りのレストランまでが長期の店じまいすること。お昼を食べにくる職員がグッと減るし、気候がいいので遠出したり、野外で食事したりする人が多いからだ。

国際機関の有給休暇は年30日。土、日、祭日と合わせれば 6週間休める。国外在住者が多数の国際機関では、年末年始か夏に長期休暇をとり、故国に里帰りするパターンが多い。 管理職レベルでも3週間以上の長期にわたる休暇は よくあり、日本であれば考えられないことだ。

遠慮なく休みを取って英気を養う、という ゆとりのあるライフスタイルを支援しているところが、国際機関の 待遇体系の魅力の一つであろう。

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応募書類書き方セミナー

外務省国際機関人事センター主催、応募書類の書き方についてのセミナーが6月2日、東京で開催された。当サイト管理人小島晶子が、国際機関応募用の履歴書及びカバーレターの書き方について指導し100人近くが参加した。

もともとは2日程かかるようなトレーニングを一時間あまりに濃縮して講義したので、情報量はかなり多い。参加者の消化不良が危ぶまれたが、皆熱心で活発に質問しインタアクテイブなセミナーとなった。また講義後に長い質問の列ができ、参加者の関心の高さを示した。

この個別質問で意外と多かったのが、リフェランスについて。 大学教授や会社の上司等を 推薦者として挙げるのが一般的だが、 推奨者の職種・職場にどうバラエティを持たせるかに関心が集まった。

リフェランスの欄を国際機関側が見て、応募者を選抜する材料に使うことはない。あくまでも採用プロセスが終わり、選出された候補者の最終チェックの段階に、健康診断 などとともに使用するもの。それだけで、 雇用決断が左右されるものではない。

幅広い交友関係を示そうと、色々な職業、環境の推奨者を無理に捜し出す必要はないだろう。また推薦者の社会的地位、肩書きとも無関係で、 会社や公共機関のトップを挙げても影響はない。日本人とそれ以外の国籍のバランスという点も、可能であればそれに越したことはない、という程度。

推薦者である組織のトップが候補者の実際の仕事ぶりを知らない、というのはよくある困ったケースだ。応募者と仕事をした経験があり、肯定的に評価してくれる人を選ぶことが 大切となる。

長い人事キャリアの中で否定的なフィードバックをしてくる推奨者は見たことがない。同意しての推奨だから、候補者を褒めて当然と言えよう。むしろ職歴の欄に書いた上司に 意見を聞いた時、予想しない答えが返ってくることがある。この点も履歴書を書く時点で考慮しておくべきだろう。

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360度評価

「多面評価」とも呼ばれる360度評価は 、上司や部下、仕事上で関連する他部署の同僚など各方面の人が被評価者を評価する手法。アメリカ企業では1950年代から能力開発のツールとして導入された。

より多くの目で観察された人物像をベースに客観的な評価と分析を行ない、育成すべき能力を浮き彫りにする。複数の人が判断するため、 被評価者の能力が客観的に評価されやすくなる。また上司や本人には見えなかった新たな発見もメリットだろう。

だが、問題もある。管理職ではない職員は評価付けの知識や経験が浅い場合が多く、被評価者に対しての「好き嫌い」 が評価に 影響しがち。管理者が部下に過度な気遣いをしたり、互いの評価を良くし合ったりという可能性もあり、 昇給や賞与などを伴う評価には普通使われていない。

コンペタンシーの導入と相まって、国際機関でも 360度評価を積極的に適用した。 現在でも管理職の能力開発プログラムではよく使われる。このツールを被評価者として、 関連研修トレーナーとして、また評価結果分析者として何度か利用した。

評価結果の入った封筒を開ける瞬間、被評価者はすごく緊張する。評価者は嫌いな上司や、一般的に問題を抱えていると認識されている同僚にはきつい評価をする傾向があるからだ。被評価者によっては、自信を喪失したり、反発心を抱いたりするケースもある。

また 匿名で行うといえ、小さな部署や機関であれば、誰がどういう評価をしたかが推測でき、のちの人間関係に響いたりもする 。

分析結果を伝える際は、被評価者のモチベーションを引き上げるよう建設的なフィードバックが大切だ。まさにジョハリの 窓の一つ、盲点の窓を広げる機会として捉え、結果を活用できれば、360度評価のやりがいもあるだろう。

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ジョハリの窓

ジョハリの窓とは、アメリカ人心理学者のJoseph LuftとHarry Inghamが考案した「対人関係における気づきのグラフモデル」のこと。

考案者の名前、ジョーとハリーからジョハリの窓というネーミングになった。音の響きから、「インド人の発明かな」などと想像してしまう人も多いのではないか。

このモデルでは、自己には4つの窓が存在すると考える。

  • 開放:自分も他人も知っている自分
  • 盲点:他人は知っているが、自分は知らない自分
  • 秘密:自分は知っているが、他人は知らない自分
  • 未知:自分も他人も知らない自分

基本的には開放の窓を大きくし、人間関係やコミュニケーションを豊かにするのが目的だ。「開放の窓」を大きくするには、他人に隠している自分を開放し秘密の窓を小さく する 。また自分の盲点を他人から指摘してもらうことでも「開放の窓」を大きくできる。

4つの窓は影響し合っているので開放が広がり、盲点や秘密が小さくなれば、未知の窓も狭まり新たな気づきが生まれる可能性もある。

この理論は、国際機関の人材開発にも応用されている。私も 360度評価(多面評価)ツール 使用の際はまずジョハリの窓の説明をして、同僚による客観的な 評価の有効性を、職員に説明したものだ。

ただし自己の秘密を開放し、 人間関係をスムースにするという行為は国際機関内では結構デリケート。 文化も考え方も違う同僚の中から、信頼でき理解してもらえる相手を見つけることが条件だ。

むしろ 仕事チーム内で自分の見えない部分を同僚や上司に建設的にフィードバックしてもらい、能力を伸ばしたり、チームの成績向上につなげたりするのが通例だろう。

また、 キャリアプランを立てる前の自己分析に加え、周りの人に自分の盲点を教えてもらうと役に立つ 。その際に、自己理解を深めて、気づきを得るような効果的なサポートができる相手であれば理想的だ。

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模擬面接サービス

応募者からの「面接指導 をしてほしい」というリクエストで始めた模擬面接サービスだが、効果は驚くほど高い。国際機関で採用側にいた時、面接で失敗した候補者を何度も見てきただけに準備の重要性を再認識している。

模擬面接 は比較的時間や手間、集中力を要するサービスだ。まず空席に合わせて、出題が予想される質問を多めにリストアップする。その際ある程度の専門分野や機関の活動に関するものも入れる。答えを評価するには、面接側も予備知識が必要となり準備に時間がかかる。

模擬面接では, 決まった時間内に本番と同じやり方で候補者に質問していく。候補者の答えの内容と、答え方両方に焦点を合わせて記録を取り、面接後フィードバックをする。コンペタンシー以外の質問への答え方や最初の3分間の態度の観察は要注意点でもある。うまくできた点や改善箇所は面接直後に指摘するが、翌日新たな注意点を知らせることもある。

このように労力のかかるものだが、単に面接テクニックを教えるよりずっと効果は大きい。過去1年半で模擬面接を直接指導した9人中7人が、国際機関に採用されている。 特に模擬面接を2度以上やったものは全員成功して いる。残りの2人からは報告がなく結果は不明。面接テクニックのみを学んだグループの成功率は、報告を受けた範囲では4人に1人だ。

日本ではあまり経験しないコンペタンシー面接だが、ぶっつけ本番より模擬で経験しておくと効果的だ。まず面接で説明する実例が適当なものか、うまく構成され、求められている行動を含んでいるかを第3者に聞いてもらえるのは貴重。また内容と同じほど大事な、説明の仕方や態度、スピード、ボキャブラリーなどを指導してもらえる機会は稀と思う。

模擬面接を受けたほぼ全員が、「最初はドキドキした」と言っているから、本番での緊張度合いは推して知るべしだろう。模擬面接を経験してきた自信が本番での余裕につながるようだ。また改善点を意識して面接に望めば、一段上のレベルの受け答えができるというもの。

面接の練習はこのようにやるだけの結果は出るので、内容を準備するだけでなく、それを説明するリハーサルもするといい。ただし直前にやってもストレスになるだけなので、少し余裕をみて計画を立てよう。

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