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UNHCRの資金難


国連難民高等弁務官(UNHCR)は紛争や迫害、人道危機により故郷を追われる難民・国内避難民等を国際的に保護・援助する国際機関。戦争の勃発、紛争の再燃、自然災害といった緊急事態に避難を強いられる人々の安全を守る。日本ではUNICEFと並び知名度が高い。

各国政府からの援助及び個人や企業・団体からの寄付がUNHCRの活動資金。しかし、今年は各国からの拠出金大幅な削減で、人道支援資金不足に陥っている。

今年の難民数は過去最高となる1億2,000万人。だが資金不足から、これまで年間約50億ドル規模だった予算は、約35億ドルにとどまる見込み。グランディ高等弁務官によると、赤字を避けるには、年末までに少なくとも3億ドルが必要だそうだ。

UNHCRは、アメリカ、ドイツ、欧州連合等少数の政府ドナー国に資金を依存してきた。日本は昨年第7位のドナー国。国の財政状況が厳しかったり、他の課題が優先されたりすると、拠出は減ったり遅れたりする。個人・民間セクターからの寄付は UNHCR の総収入の約 13%程度で、それだけでは資金不足を補えない。

国連人道調整事務所(OCHA)によれば、2025年8月末時点で、2025年の世界の人道支援に必要な資金のうち実際に集まったのは14%との旨。これは2024年同時期のたった40%程度と、大幅な減少だ。

今年8月、UNHCRは2026年度の予算を2025年の102億ドルから約85億ドルへと約20%削減すると発表。約5,000人の雇用削減 や185の地域事務所閉鎖が予定されている。来年は1億3,600万人と今年を上回る難民数になるが、医療や教育、食料支援などあらゆる分野で支援が縮小される。

こうした資金難はUNHCRに限らず、世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)など多くの国連機関が直面し、事務所閉鎖や援助削減を迫られている。

かつてない人道ニーズの高まりに対し、国際社会は支援財政の危機に面している。UNHCRの資金難は、単なる一機関の問題ではなく、国際人道支援システム全体への挑戦と言える。持続可能な支援モデルの再構築と、多様な資金源の確保が必要だろう。

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色々な国際機関

国連の定義によると、国際機関とは、政府間協定によって設立され、国際協力に関する広範な機能を持つ組織。国連(UN)、世界銀行(WB)、FAO、UNICEF、WHO、OECD、WTO、EUなどがこれにあたる。

一方で国際的に活動するも、政府間交渉でできた団体ではないのが、非政府組織(NGO: Non-Governmental Organization)。国際法上の法人格を有す国際機関と違い、ホスト国の国内法に従って活動する。

現在活動中の国際機関は約300から400といわれるが、国連やUNHCR等と違い、あまり知られていない機関もある。例えばブエノスアイレスに本部を置く、Antarctic Treaty Secretariat(南極条約事務局)世界の「極地をめぐる国際ガバナンス」の中で、唯一「領有権問題を凍結した成功例」として高く評価されている。またアブダビにある国際再生可能エネルギー機関(IRENA)も2009年設立のせいか、一般の認知度は低い。

日本に本部のある機関は、東京の国際連合大学(United Nations University, UNU) と横浜にある国際熱帯木材機関(International Tropical Timber Organization, ITTO)。

日本人が現在事務総局長になっている機関は、スイス、ベルンにあるUPU 万国郵便連合と、バンクーバーに本部をおく北太平洋溯河性魚類委員会 (NPAFC) のみ。どちらも知名度は低いが、日本にとっては重要な機関。

日本は国連や世銀だけでなく、多くの国際機関で資金・知識・人材を通じて国際社会を支えている。これらは世界の安定や持続可能な発展を支援するだけでなく、日本の信頼と発言力を高める機会でもある。

今後、気候変動・食料安全保障・デジタル経済といった新しい課題に対し、日本が国際機関を通じどのように世界のリーダーシップを取っていくかが注目される。

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お知らせ

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酷暑と屋外労働

今年の日本は130年ぶりの猛暑に見舞われた。韓国や中国、イギリス、アイルランドなどでも観測史上最高の暑さが記録され、中東では50℃超、ヨーロッパでは40℃超の日が続き、森林火災も頻発。年平均気温は世界・日本ともに上昇傾向にあり、今世紀末にはさらに数℃の上昇が予測されている。

炎天下での労働は深刻なリスクであり、ILOは毎年24億人以上が過酷な環境で働き、2200万人以上の負傷、1万9000人の死者が発生していると警告。暑さは健康だけでなく生産性にも直結し、暑さ指数(WBGT)が20℃を超えると1℃上昇ごとに2〜3%の低下を招くとされる。

日本でも状況は深刻だ。厚労省によれば熱中症による労災は増加傾向にあり、特に屋外作業で目立つ。このため2025年6月から労働安全衛生規則が改正され、WBGT28以上や気温31℃以上の環境で作業する事業者に、熱中症リスクの早期報告体制づくりが義務付けられた。

WHOとWMOの共同報告書(8月22日付)によれば、世界人口の半数が猛暑の影響を受けており、とりわけ途上国では貧困の悪化が懸念される。裕福な国では冷房や屋内作業で暑さを避けられる一方、低所得地域では「健康か生計か」という二択を迫られる現実がある。これが不平等を拡大させ、貧困削減の取り組みを後退させかねない。

WHOとWMOは、雇用主・労働組合・自治体が協力して職場の猛暑対策を進める必要性を強調。人口の大半がインフォーマルセクターで働いているアフリカでは公的保護が行き届かないため、意識向上は国家計画と同じくらい重要だと指摘した。

報告書は熱中症対策をSDGsの「貧困撲滅」「健康増進」「働きがいのある仕事」「気候変動対策」と結びつけている。猛暑から労働者を守ることは、経済やサプライチェーン全体を守ることでもある。気候変動が突きつける課題は、今や職場の安全と社会の持続性そのものに直結している。

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プラスチック汚染国際条約

8月5日(火曜日)からジュネーブで続いていた、プラスチック汚染に対処する国際条約づくりの政府間交渉会合は15日、合意を見送り閉幕した。再開会合の期日は未定。

前記事で書いたように、プラ汚染根絶のための法的拘束力のある国際条約を24年末までに作ることが2022年の国連環境総会で決議された。条約が実現すれば、環境分野では「生物多様性保全」「地球温暖化防止」に続く大型条約となり、社会生活や産業に多大な変化をもたらす。

今回も最大の争点はプラスチック生産段階の規制で、原料の石油を産出する産油国側が強く抵抗。予定より会議を一日延長し、健康リスクのあるプラ製品の段階的廃止を選択肢に盛り込むなどした何度目かの議長修正案が出たが、各国から賛同は得られなかった。

化石燃料と化学産業のロビイストの数は、前会合より14人多い、234人。欧州連合(EU)の27加盟国およびEU代表団の合計233人を上回る。

グリーンピースの活動家たちはジュネーブの国連欧州本部前で「プラスチック条約は売り物ではない(Plastics Treaty Not for Sale)」と書かれた横断幕を掲げ、プラスチック汚染防止条約に対する石油業界の影響力を非難した。

合意断念は2024年の釜山交渉委から2回連続。国際ガバナンスの拠点ジュネーブと多国間主義にとっては新たな打撃となった。

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プラスチックごみ

プラスチックによる環境汚染の防止に向け、初めてとなる国際条約案をまとめる政府間交渉委員会が8月5日からジュネーブで始まる。170カ国の代表が集まり、法的拘束力のある内容をまとめる予定。

世界では年間4億トン以上のプラスチックが生産され、半分は使い捨て。リサイクルされるのは1割に満たず、年間1,100万トンが湖や海に流れ込むか、マイクロプラスチックとして生態系や人間の体内に浸透する。一人あたりの年間マイクロプラスチック摂取量は、5万個以上という。

OECDの報告書では、プラスチック生産量は2040年に2倍、2060年に3倍に増え、汚染はさらに深刻化すると予測されている。

この問題に対応するため、2022年の国連環境総会で、2024年末までに国際条約を合意する歴史的な決議が採択された。条約は生産規制や廃棄物管理など、プラスチックの全ライフサイクルが対象。

しかし、合意は難航している。2024年12月の韓国・釜山での会合で決着するはずだったが、合意は先送りされた。ノルウェー、ルワンダ、日本などは2040年までの生産削減を主張するが、サウジアラビアやロシア、中国などの産油国・プラスチック生産国は生産規制に反対し、廃棄物管理にとどめたい考え。また、釜山会合には化石燃料・化学業界のロビイスト約220人が参加し、交渉を妨げた。

健康専門家は、プラスチックが健康に及ぼす影響を条約に盛り込むよう求めている。WHOも「人の健康とクリーンな環境は密接に関わる」と指摘。プラスチック添加物や化学物質はホルモンかく乱や発がんリスクを高め、糖尿病や心血管疾患等にも影響する。

人権専門家は、クリーンで健康な環境への権利を条約で保障すべきとし、子どもや労働者、先住民などが被害を受けやすいと訴える。

プラスチックの生産と消費の持続可能な削減、危険性化学物質の制限、バリューチェーン透明性の向上、製品設計の改善などがプラスチック汚染根絶の鍵だろう。ジュネーブ会合での合意を期待したいものだ。

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スイス人失業者用セミナー

昨日、政府開催のスイス人失業者向け研修の講師をした。この研修は7日間にわたり、国際協力に興味をもっている参加者にその基礎を教えるもの。

異文化間コミュニケーション、国際協力の仕事、プロジェクト管理、NGO や国連機関への就職について等の内容で、現地の利を生かした、国際機関への6か月インターン制度もある。

半日の国連機関についてのセミナーを4年前から担当しているが、16人の参加者を満足させるのは大変だ。最初は国際機関の活動や人事制度、職務内容を説明していたが、退屈そうな様子。失業中と言え、大学出まもなくから60歳近いベテランまでと知識、動機にばらつきがあり、国際機関に就職を考えているものは少数派。

失業者には全てのコースへの出席が必須。国際機関に興味のない参加者にどうアピールするか、で色々試した結果落ち着いたのが、コンペタンシー面接の実習だ。

国連に代表される国際機関のコンペタンシー面接は民間企業や政府機関でも使われる傾向にある上、普通の面接にも十分役に立つ。私企業の就職面接でよく出る長所や短所を聞かれる質問や、こういう場合、どういう行動をとるか、等のシナリオベース質問には最適。

採用面接では、質問への答えが良く構成されいて具体的であるほど、候補者の得点は上がる。また空席広告をよく分析し、自分の長所や過去の行動を強調する習慣は応募書類作成にも有効。念入りな準備は自信にもつながり、落ち着いて面接に臨める。

国連が人事決定の際に公平性、客観性、そしてグローバルな一貫性を維持するために生まれたこの面接方法は、時間がかかる上、採用側にも候補者側にも負担がかかる。コンペタンシー面接準備の努力をもっと他の機会にも生かしてほしい。

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国際都市ジュネーブの行方

国連の予算危機の中、アントニオ・グテーレス事務総長 は 3月、コスト削減を中心に組織の効率化などをめざす改革案「UN80」を発表した。

その目的は、国連活動の効率化と改善の領域、マンデートの履行状況の見直し、構造的な変革とプログラムの再編成ついての提案を、加盟国に出すこと。提案は今年9月に用意される26年予算と、27年予算に反映される。

グテーレス氏は5月12日、改革案の検討状況を加盟国に説明。国連事務局における部門の統廃合や、国連で最も維持コストの高いニューヨークとジュネーブの一部業務を物価や人件費の低い都市に移転する案を検討中と発表した。

このようにトップダウンの抜本的な構造改革案が検討されており、国連職員は移住や失職を強いられることに不安を抱いている。

ニューヨークとジュネーブからの移転可能性に危機感をいだくのは、職員だけではない。地域と国に名声と大きな経済効果をもたらしている国際都市ジュネーブの地位が弱まれば、スイスが失うものは大きい。

ジュネーブには、国連欧州本部など大規模なインフラがあり、加盟国193カ国のうち183カ国が外交使節団を派遣。多数のNGO、大学、民間企業も拠点を置く。国連にとって利点の多い都市であり人道支援、保健、平和構築、気候変動といった世界の懸念事項が議論される。

数ある機関がジュネーブに拠点を置くのは、国際都市ジュネーブの「エコシステム」の一部になりたいという理由から。ジュネーブがただちにグローバル・ガバナンスの中心地としての地位を失うとは考えにくいが、将来維持コストの低い国に、財務、IT、人事などのバックオフィス(事務管理部門)を置くことは十分に可能。

スイス政府は5月初め、2025年に国連児童基金(ユニセフ)、国連女性機関(UN Women)、国連人口基金(UNFPA)へ計3900万フラン(約67億7700万円)を拠出すると発表。拠出を更新することで、国際都市ジュネーブに有利に働く強いメッセージを送るという。

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国連海洋会議

海洋環境の保護などを議論する第3回国連海洋会議が9日、フランスのニースで13日までの日程で開幕。

会議では、地球温暖化による海水温の上昇や、プラスチック汚染の対策、海洋資源の持続可能な活用などについての議論が予定されている。

地球の表面積の4分の3を占める海洋は、富栄養化、酸性化、魚類資源減少、水温上昇、汚染といった重大な課題に直面。日本のように四方を海に囲まれた国にとっての影響は深刻だ。

一方で、海底の鉱物などに含まれるレアメタルの需要が高まり、アメリカのトランプ政権は今年4月、自国の排他的経済水域以外でも海底の鉱物資源の採掘を進める方針を表明した。

これに対し、会議を主催するフランスやコスタリカなどは、深海の生態系などに対して悪影響を与えるおそれがあるとして海底の鉱物資源の採掘を制限すべきと主張。

グテレス国連事務総長は開会式で、「深海を無法地帯にしてはならない」と訴えた。マクロン仏大統領も「トランプ政権が領有に意欲を示すグリーンランドが売り物でないように、深海は売り物ではない」と強調。他の参加国の首脳らからも、性急な開発は避けるべきだという訴えが相次いだ。

アメリカは今回の会議に閣僚を派遣せず、オブザーバーとしての参加にとどまるということで、海底資源の開発をめぐる国際社会の立場の違いが目立つ。

持続可能な開発目標(SDGs)の目標14「海の豊かさを守ろう」は、17の目標の中で最も資金が不足している。国連海洋会議は、海洋の保全と持続可能な資源利用の為、一致団結した行動を再活性化させる重要な機会であろう。

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人道支援の展望

第2次ドナルド・トランプ政権の誕生後、アメリカは人道支援費を大幅に削減。これを契機に、他のドナー諸国も次々と対外援助の見直しや削減に動き始めた。

現在、世界の人道支援の約65%は、米国、ドイツ、欧州連合(EU)、英国の4カ国・機関が担っている。日本は2024年、人道支援総額3482億ドルのうち約12億ドルを拠出し、全体の3.5%を占める7番目のドナー。

トランプ政権の予算カットに続き、英国は2024年2月末、対外援助予算を国民総所得(GNI)の0.5%から0.3%に削減することを発表。ドイツも新連立政権のもと、3月の連立協議で国内総生産(GDP)比0.7%という援助目標の放棄を表明した。

新型コロナウイルスのパンデミックやウクライナ戦争による国防費の増加を理由に、フランス、ベルギー、スウェーデン、スイスなども人道支援・国際協力関連予算の縮小に踏み切っている。

こうした中で、対外支援を拡充している例外的な国もある。日本は支援削減の流れに逆らい、UNICEFなど国連機関への拠出を継続・拡大。ノルウェーも、米国の資金カットによって影響を受けたウクライナやNGO支援を強化しているが、何十億ドル規模である不足分を埋めるには到底足りない。

米国の資金的空白を補える存在として、中国や湾岸諸国(アラブ首長国連邦、サウジアラビアなど)が考えられる。湾岸諸国はここ数年、国連人道支援機関への有力なドナーとなっているが、その支援は主にイエメンなどアラブ連盟・イスラム協力機構加盟国への地域的支援に偏っている。

国連の人道支援は、国籍、宗教、性別を問わず、最も支援を必要とする人々を公平に援助するという「公平性の原則」に基づいている。また人権の尊重、環境・気候保護、民主主義の促進といった条件も伴い、複雑で効率性に欠けると見られる場合がある。

中国は不動産バブルの崩壊による経済停滞で不安定要因を抱えているだけでなく、その対外援助は国連を通じた多国間支援よりも、二国間での影響力確保を重視する傾向にあり、将来国連援助を促進するか不明。

近年、民間セクターの財政的貢献への期待も高まっているが、その参入は国連援助とは必ずしも相いれない。民間企業は、戦争下にある地域や見返りのない投資には消極的であり、結果として人道支援の倫理原則が後退する懸念もあるからだ。

米国の援助削減によって生じた資金の空白を埋めるのは、なかなか難しそうだ。

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