今回はアドバイザー、春具氏の投稿です。
国際機関というところは本当に民族衣装のオンパレードで、会議だけでなくレセプションなども民族衣装のキャットウォークといってもよい。民族衣装は強烈なファッションステートメントであり、政治的ステートメントでもある。
民族衣装の政治的効果は絶大だ。アフリカ、アラブ諸国の代表たちとかインド、パキスタンの外交官や歴代の首脳は民族服の常用者であり、それがそのままトレードマークになっていた。リビアのカダフィ大佐やナイジェリアのオバサンジョー大統領が彼の地の伝統的な装いで壇上にあがり演説すると、西洋のスーツなど霞んでしまう。外交の場では民族衣装は強力なパワースーツだ。
国際機関の会議の場においてメッセージを伝える道具はスピーチだけではない。コミュニケーションの方法に non-verbal communicationというジェスチャーや態度での伝達法があるが、民族衣装はまさにこの役割を果たしているわけだ。
スピーカーは単純に自国の伝統を表示するために国民服や宗教的な衣装をまとって出てくるのではない。意気込みや信念を明確に伝えんとして着てくるのだ。民族衣装でなされるスピーチはパンチがあり、なによりも視覚的に説得力がある。
この視覚効果をメディアを通じて利用した政治家はインドのマハトマ・ガンジーだろう。ガンジーは独立運動の際、貧しい国民にアピールするためインドの民族服で国民の前に立った。ガンジーの腰布姿の写真は、彼の無抵抗主義思想をビジュアル化したようなもので、国際社会へのインパクトは相当なものだった。
事務局をみまわしてみてもナショナルコスチュームで出てくる国際機関職員というのは結構いる。アオザイやチャイナドレスを着てくるアジア人女性やサルワー・カミーズというパンツ・スーツで勤務するインドの女性にはよくお目にかかる。アフリカの同僚は、夏場にはうらやましいくらいクールビズそのままの風通しのよさそうな衣装で出てくる。キタンゲとよばれる典型的なアフリカのドレスであろうか。このように自らの文化に馴染んだふだんの衣装のほうが能率良く仕事できるという実用性、そしてその背後にある異文化、多様性を許容しているのが国際機関の魅力であろう。