NATOジュネーブ連絡事務所

北大西洋条約機構(NATO)は32カ国が加盟する政治・軍事同盟で、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来、連携を強めている。今秋ジュネーブに連絡事務所を設置する予定。

ジュネーブは多国間外交の一大中心地で、国連欧州本部のほか、国連専門機関や赤十字国際委員会(ICRC)等の本部がある。特に軍縮や戦争のルールを定める国際人道法などの分野では、交渉の最前線に立つ。

NATOは、国連本部があるウィーンとニューヨークにすでに連絡事務所を設置。ジュネーブ事務所が稼働すれば、国際機関、政府代表部の外交官や、ジュネーブを拠点とする750の非政府組織(NGO)と交流できる。

ウクライナ戦争勃発後、フィンランドやスウェーデンなどの非同盟国や中立国がNATOに加盟。非加盟国であるスイス自体もNATOとの関係を見直すことを連邦会議で提案している。

またNATOは、ロシアと中国の影響力拡大に対抗すためアジア・アフリカへの拡張を狙っており近年は日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどの非加盟国もNATOの年次首脳会議に出席している。

NATOのジュネーブ事務所開設はスイスの中立性を傷つけ、ジュネーブの「平和の首都」としての評判を損なうと、国内に論争を巻き起こした。一方で連邦内閣(政府)は、安全保障政策問題に関する議論の中心地としての、ジュネーブの地位強化につながると反論している。

現在の世界情勢を見ると、国の安全保障政策を確立させつつ、完全な中立国になるというのがいかに難しいかを感じさせる。

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プレゼンターのパラドックス

仕事上、長くて委細にわたる履歴書やプレゼンに遭遇するが、必ずしも効果的とはいえない。空席に関係ないスキルや資格まで入れるとインパクトは薄まる。役立ちそうな情報は全て入れる、という心理は「プレゼンターのパラドックスPresenter’s Paradox」と呼ばれる。

心理学者のウィーバー、ガルシア、シュワルツらは2011年に、「プレゼンターのパラドックス」を例証してみせた。被験者にiPodとカバー、そして音楽を1曲無料でダウンロードできる特典つきパッケージとiPodとカバーだけのパッケージの2種類を提示しそれぞれへの支払い意思額を調べた。

被験者らが示した意思額の平均は、ダウンロード付きのパッケージで177ドル、ダウンロードなしのパッケージで242ドルだった。価値の低い無料ダウンロードをおまけしたために、パッケージの知覚価値がかえって65ドルも下がったのである。

一方で別の実験グループにはマーケティング担当者(サービス提供者)になってもらい、上記2つのパッケージのうちどちらが消費者にとって魅力的だと思うかと尋ねた。結果、被験者の92%が無料ダウンロード付きのパッケージに魅力を感じたという。

提供側の立場に立つと「多いに越したことはない」と思うのに、消費者はそう考えないという矛盾。これは国際機関へ自分を売り込む時の応募書類や面接にも当てはまる。

自分の数ある実績を全て並べておけば、雇用側がそれを足し算してくれるだろうと、応募者は普通考える。だが単に多いだけでは効果は低い。採用側は、候補者の学歴や資格職歴等を足しているのではなく全体をひとつのパッケージとして評価しているからだ。有功な学歴や資格も、ポストに関係のない学歴や言語能力などと同列にすると、受け手の印象は弱まる。

何でもいれたい衝動にかられるときは履歴書の全体像をチェックし、よけいな情報は削る。面接の受け答えでもポストへの関連事項のみを強調するよう心がけよう。ただし、自分を売り込むという主観性がプレゼンターのパラドックスと相まってなかなか難しい。キャリア国際機関の応募書類添削や模擬面接サービスも利用してほしい。

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日本の捕鯨

国際連盟の主導で初の捕鯨取締条約がジュネーブで締結されたのは1931年。それから約1世紀が経った今、日本の捕鯨は瀬戸際に立たされている。

国際捕鯨委員会(IWC, 加盟国88)の商業捕鯨モラトリアムが発効した1986年以来、商業捕鯨は禁止されている。ノルウェーとアイスランドが異議や留保をして商業捕鯨を続ける一方、日本は長い間「科学的研究」目的であると主張し、モラトリアムを回避してきた。

だが国際司法裁判所(ICJ)は2014年、日本の南極での捕鯨活動に有罪判決を下した。判決を受け、日本は南極海での調査捕鯨を中止したが、2019年にIWCから脱退し、領海と排他的経済水域(EEZ)での商業捕鯨を正式に再開した。

IWCの脱退後も、日本には環境や海洋生物を保護する義務がある, というのが国際的見解。海洋環境問題を専門とする国際弁護士、マルゴシア・フィッツモーリス氏は「日本は国連海洋法条約(UNCLOS)の加盟国であり、海洋哺乳類の保護に協力しなければならない」ため、データの共有や環境影響評価の実施などが義務付けられるという。

2023年に採択された国連公海条約は、国の管轄権外にある海洋の保護を目的としている。フィッツモーリス氏は、2025年に発効予定の同条約は強力な拘束力を持つので「もし日本が領海を越えて鯨を捕獲すると決めた場合、国際的な反発を招くだろう」と予想。ただし日本が捕鯨の範囲を公海にまで拡大する可能性は低いそうだ。

2023年時点、世界最大の捕鯨国は年間500頭を捕獲するノルウェーで、日本の300頭が続く。3番目はアイスランドで24頭。国内での鯨肉消費は、1960年以来下降をたどっている。

環境NGO「シー・シェパード」創設者のワトソン氏は、7月21日にグリーンランドでデンマーク当局に逮捕された。米国・カナダ両国籍を持ち、NGO「グリーンピース」の共同創設者でもあるワトソン氏は日本から告発されている。日本の捕鯨船に悪臭弾を投げて損傷させ、乗組員を負傷させた罪であり、日本では最長15年の懲役刑を受ける可能性がある。

ワトソン氏の逮捕以来、世界中で解放を求める声が上がっている。8月6日、ジュネーブの国連欧州本部前広場で、40人ほどがプラカードを手に「ポール・ワトソンを釈放せよ」とシュプレヒコールを上げた。同15日、デンマークの裁判所は環境活動家のワトソン氏の勾留を9月5日まで延長すると決定。ワトソン氏は果たして日本に受け渡されるのだろうか。もしそうなれば、日本の捕鯨への風あたりはますます強くなりそうだ。

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コンペタンシー面接

年に数回スイス政府が主催している、コンペタンシーベースト面接の研修を担当している。国際機関就職希望のスイス人失業者が対象で、参加者の関心は高い。

コンペタンシー面接は国際機関採用過程の中で、もっとも特徴的なのものと言える。国際的なキャリアを積んできたスイス人にも未知の世界ではある。

多国籍私企業や一部の政府の役職ポスト採用に使用されているとはいえ、まだまだコンペタンシー面接への認知度は低い。とくにフランス語圏では、文化の関係か浸透が遅いようだ。

コンペタンシー面接のセミナーでは、実際にパネルメンバーや候補者になってもらい、模擬面接を体験。その後感想を述べてもらい、主要ポイントを再強調する。

まず一番の教訓は、面接への準備の重要さ。準備なしで納得できる面接はできない。そして準備にかかせないのが、空席広告の読み込みや関連サイト、情報のリサーチ。

空席広告に表示されたコンペタンシーをもとに、採用側が出しそうな質問を想定し、答えを準備。答えは簡潔さ、具体性、長さに留意し一定のルールに従って構築していく。使用する経験をなるべく空席広告の環境に近い例にすると申し分ない。

これらのポイントはどの候補者にも、どの面接にも通じることなので、邦人候補者にも役に立つと思う。キャリア国際機関では模擬面接のサービスもしているので、活用していただきたい。

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空席広告の読み込み

国際機関に何度応募しても筆記試験や面接まで行き着けない、という経験はないだろうか。その場合もう一度空席広告を念入りに読み、自分のプロフィールと空席の合致を確かめたい。

採用担当官時代、空席広告を読んだとは思えない応募の多さに驚いたもの。教育、経験年数、言語 Education, Work Experience, Languagesという3基本要素さえ満たしていない書類が大多数だった。

空席広告の始めに書いてある職務タイトルやグレード、契約のタイプ、長さ、勤務地等の情報にまず注目。ポストによっては内部職員のみ、ロスター登録者用など応募対象者限定の場合もある。

上記の情報だけでも応募への影響は大。例えば勤務地がフランス語圏とすると言語の知識なしで応募しても、競争力は弱いだろう。安全性が低く扶養家族が現地で生活することを認められていないnon family duty stationも空席に明示してある。また短期契約の場合、更新の可能性が示されているもの以外は、その期間限定となる。

次に表示される職務の記述は丁寧に読み、内容、責任の範囲やレベルを十分把握。自分の経験と職務内容が重なっている部分は、応募書類で強調する。

考査の条件には学歴、経験分野、年数、必要な資格、コンペテンシ―、言語等、色々な項目が記されている。

国連の最初のスクリーニングではWork Experienceに記してある資格や特殊な経験の有無が考慮される。またdesirable,  advantage,  asset, などと書かれた部分も選考対象。特に外部からの応募者は、これらの条件もクリアしていないと次の採用プロセスまで進むのは難しい。

このように空席広告には様々な情報が含まれている。自己のプロフィールとキャリアプランに合致したポストか、充分読み込み理解してから、応募したいものだ。

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国連世界観光機関

国連世界観光機関 – United Nations World Tourism Organization (UNWTO) は 2003年より国連専門機関として活動。World Trade Organization (WTO – 世界貿易機関)と区別するためWTOの前にUNを追加している。

観光を通じた豊かな社会の実現と各国の相互理解の促進を掲げ、責任ある持続可能な観光の促進が目的。UNWTOは6地域、加盟国158ヵ国、500以上の賛助会で構成され、本部はマドリッドにある。

観光振興には官民の連携が欠かせず、研究機関や企業も賛助加盟員として参加している。正規職員総数は90名あまりで、ジョージア出身のズラブ・ポロリカシュビリ氏が事務局長。

観光大国である日本はUNWTOの執行理事国であり、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン及び中国と共に加盟国中最多の分担金を拠出。奈良にはアジア太平洋センター(駐日事務所)がある。

2024年5月21日、ダボス会議で有名な世界経済フォーラム – World Economic Forum (WEF)が旅行・観光開発ランキング(Travel & Tourism Development Index)を発表し、日本は1位のアメリカ、2位のスペインに次いで3位となった。これは環境、インフラとサービス、旅行と観光資源、旅行と観光の持続性の分野における様々な指標を比較したもの。トップ10位は2019,2021年とも欧米諸国と日本、中国が占めており途上国との差は大きい。

上記の報告書によると、観光産業は世界全体の国民総生産(GNP)の約10%を占め、雇用に多大な影響を与えているが、不安定。マクロ経済と地政学的な不確実性、そして環境と気候変動によるリスクが大きい。コロナやデジタル化により、たくさんの旅行会社がつぶれたのも最近だ。

観光公害(オーバーツーリズム)もよく問題にされる。円安に伴ってインバウンド旅行者が激増した日本でも、深刻な問題となっている。UNWTOはオーバーツーリズムを防ぐ方法も提案しているが、成長と持続可能性を両立していくのは簡単ではない。とくに途上国では財源とノウハウが不足している。

災害が多い日本は、観光分野でも災害からの復興や危機管理の技術、経験が豊かで、UNWTOへの貢献が期待される。また日本人旅行者のマナーの良さは世界的に知られており、それも責任ある観光の手本として、もっと注目されて良いだろう。

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国際オリンピック委員会

パリオリンピックの開催日(7月26日)も迫ってきた。運営の中心にある国際オリンピック委員会(IOC)とはどういう組織か。

IOCは1915年4月10日、ピエール・ド・クーベルタンがスイス、ローザンヌで設立。国連総会オブザーバー(出席はできるが、投票権・発言権はない)資格のある、ノンプロフィットの非政府組織 NGOである。

IOCは、国内オリンピック委員会(NOC)および世界の「オリンピック・ムーブメント」(IOCの用語で、オリンピックに関わるすべての団体や個人を指す)を統括し、206のNOCを正式に承認している。

現在のIOC会長は、2013年9月に就任したトーマス・バッハ(ドイツ)。スタッフは500人と国際NGOとしては規模が大きく、職員の国籍は日本も含め50あまり。手当てとともに職員用スポーツ施設も充実している。

創立以来オリンピックは運営費数十億ドル規模の大イベントに発展し、IOCの知名度は大抵の国際機関よりずっと高い。運営資金は、主に放映権料販売とスポンサーシップ収入からきているが、資金繰りに悩む国際機関には羨ましいリッチさ。

委員会でよく知られているのはオリンピック開催地への競争だろう。時期開催地の選出過程は不透明で、委員への接待や献金がよく問題になった。そのため2019年より、複数の候補地が総会で投票を争う方式は廃止。開催意志のある都市とIOCが継続的に話し合い、準備が整ったと判断した候補を理事会が総会に推薦し投票というプロセスを取り入れた。

豊かな資金をSDG(持続可能な開発目標)貢献活動にも使っているIOC。パリオリンピック開会式の前日には「スポーツと持続可能な開発に関する国際サミット」を開催する。このサミットは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に基づいてスポーツがどのように貢献できるかを明確にするもので、パートナー国での「スポーツと開発」プロジェクトを広める目的。

「スポーツ。そして、スポーツを超えて」が今オリンピックに向けたIOC のスローガン。スポーツを超えたオリンピックの価値を強調し、SDGとの関係をより強める機会であろう。

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UNOGの財政危機

ジュネーブにある国連欧州本部UNOGは前例のない予算危機に直面し、大幅な経費削減を実施中。予算は増えていないのに加盟国の支払いが遅れたり、全額拠出しないケースが増加。そこに諸経費の値上がりや予想外の出費が重なったのが主原因らしい。

UNOGのあるスイスでは2023年、家庭のエネルギー価格が27%上昇したが、このようなインフレは、2022年12月に国連総会で承認された2023年度通常予算では想定外。電気代節約のため、昨年12月20日からは国連ビルが2週間以上全面閉鎖になったほど。

国際外交と人道主義の中心地であるUNOGは今年、給与以外の経費を42%削減する取り組みを進めている。このため、UNOGの建物の照明を落としたり、サイドイベントや非政府組織(NGO)の会合をセーブしたりしている。

UNOGは現在、国連人権理事会や軍縮会議など、毎年定期的にセッションを開催する義務がある公式会議を優先。外交交渉の生命線ともなる非公式会合や市民社会の参加は、激減するリスクがある。

財政的な課題は、UNOGの職員に限らず、ジュネーブに集まる国際機関やNGOを含むコミュニティ全体に広範囲な影響を及ぼす。削減された予算を管理しながらも、基本的な機能とサービスの維持は必要。とは言っても、オンラインの会合ばかりでは、舞台裏での多国間交渉の機会が失われてしまう。

この予算危機には、新型コロナの影響、ウクライナ戦争、中東情勢に揺れる加盟国の経済的課題が反映されており、多国間組織の正当性の危機でもある。UNOGの財政問題は、国際秩序のより深い変化の兆しであり、国連の活動を支える多国間主義の原則と対話への挑戦ともなり得る。

複雑な国際政治と世界的な危機が根本にある現在、財政安定の鍵となる各国拠出金を調達するのは難しくなっている。資金削減策により、多国間対話に不可欠な、包括的プラットフォームの一部を放棄することが財政危機の一番大きな問題であろう。

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ノンバイナリー

欧州国別対抗の音楽祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」決勝が5月11日スウェーデンで行われ、「ノンバイナリー」を自認するスイス代表のネモ(Nemo)が優勝。会場周辺ではイスラエル参加に対する大規模な抗議活動も行わるなど、色々な物議をかもしだしたコンテストでもあった。

ジェンダーバイナリーが、性別を男性か女性の二択のみの出生時に割り当てられた性で分類する考え方であるのに対し、ノンバイナリーとは男女二元論にとらわれない考え方。自分のジェンダーアイデンティティ(=体の性ではなく、自分で認識している自分の性)や表現したい性が男性・女性という性別のどちらにも明確に当てはまらないという考えを指す。

性的少数者(セクシュアルマイノリティ)の総称であるLGBTQ+、すなわち、Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性が異なる人)、Queer/Questioning(クィアまたはクエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)+プラス(あらゆる性のあり方を包括した表現)中、ノンバイナリーはQueerに属するらしい。

SDGs(持続可能な開発目標)が求めるジェンダー平等やダイバーシティ(多様化)&インクルージョン(受容)の推進において、LGBTQ+への理解は不可欠とされ、企業でもさまざまな取り組みが進んでいるようだが、まだまだ当事者へのハードルは高い。

UN Womenでも、女性とLGBTIQ+の人々の人権を促進するグループは、安全で公正な社会を実現するという同じ目標を共有していると主張。そうすることによって、根本的に、父権制度、白人至上主義、人種差別、植民地主義、能力差別、階級主義、および他の抑圧のシステムに対抗しているという。

優勝したNemoは、ドラムンベース、オペラ、ラップ、ロックを織り交ぜた楽曲「The Code」で、性自認を男女の枠に当てはめない「ノンバイナリー」としての自分を受け入れるまでのけわしい道のりを歌い上げた。

Nemoは大会後の記者会見で、「スイスのような国にとって、ノンバイナリーを取り入れた曲を披露することは、並大抵のことではない」と語った。またスイスには依然として、性別を区別しない三人称代名詞が公式には存在しないと指摘し、政治におけるノンバイナリーコミュニティの代表性を高めるよう呼びかけた。

日本においても2021年6月、宇多田ヒカルさんがInstagram Liveの中で自身が「ノンバイナリー」であることを告白し、大きな話題となった。男女二元論と硬直的なジェンダー観を前提としたシステムを改正するにはまだまだ、時間がかかりそうだ。

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UNRWA

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)はアラブ・イスラエル戦争で住居や生計を失ったパレスチナ人を救済するため1949年、暫定的に設立された。仮組織として任務の委託を3年ごとに延長しつつ、すでに75年。ヨルダン、シリア、レバノン、パレスチナ自治区に住む560万人を、医療・教育・人道政策などの分野で支援している。

パレスチナ難民支援を始めた当時から、財政難はUNRWAにつきまとった。だが、2010年頃から援助資金を減額する国や地域が増え始め、状況は切迫。支援活動の維持ばかりか、UNRWA職員約3万人への支払いに困ることも少なくないという。

難民の地位は子に引き継がれるため、数は増す一方でUNRWAの活動も増大した。2022年の資金は16億ドル(約2140億円)で大半は西側諸国からの寄付。日本はアメリカ、EU、ドイツ、スウエーデンに次ぐ大口の拠出国だ。

パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから、UNRWAの資金状態はさらに悪化。それに加え今年1月、UNRWA職員12人が昨年の奇襲に関与していたというイスラエルの告発があった。

UNRWAは直ちに職員を解雇し、イスラエルは告発の証拠をまだ国連に提出していないと反論。だがこの告発で、日米を含む15カ国以上が拠出金を一時停止し、ガザの人道危機への対処予算8億8千万ドル(約1300億円)の半分近くが不足することになった。

告発を受けて国連が調査に乗り出し、4月22日に独立調査報告書を発表。それによると、UNRWAの中立性に関しては、組織内に大きな機能不全はないとの結論がでた。だがこの結論は米国とイスラエルを納得させなかったようだ。

4月末で資金停止を解除したのは日本をはじめ、EU、 ドイツ、スウエーデン、カナダなど。アメリカ、イギリス、スイス等は以前解除を見合わせている。その間に難民状況は深刻化する一方で、UNRWAを解体できるような平和的環境にはまだ遠いようだ。

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